ディスクゴルフ第3回鹿児島オープンは、平成29年1月28日(土)~29日(日)、県立吉野公園において、全国から52名の参加を得ました。
初日が絶好の晴天、翌日は小雨から濃霧が発生し、一時試合を見合わせる状況におかれましたが、何とか無事終了しました。
参加選手を詳細に検討すれば、所属は福岡県22名、鹿児島県18名、山口県3名、佐賀県2名、宮崎県、熊本県、滋賀県、京都府、東京都、千葉県、岩手県それぞれ1名となり、年齢層は20代6名、30代7名、40代2名、50代14名、60代17名、70代5名、80代1名を刻みました。性別では男子36名、女子16名でした。出場者の大半は福岡県で、さすがオープン開催30回を数える老舗には、競技人口開発への自覚と情熱が横溢していることが証明されました。鹿児島県は地元開催ゆえの多数派であることは論を待ちません。
かなうことなら他都道府県大会にも薩摩隼人が怒涛のごとく押し寄せ、第二次西南の役の模様とならんことを。プレー年齢層は60代が首位を占め、50代、30代、20代、40代と続きます。
70代も健闘。80代も残り火を必死にかきたてています。ディスクゴルフもまたグラウンドゴルフ同様、中高年に支持されているようです。男子同様、女子にもその魅力が浸透してきています。36名対16名の性別はまだ相当の開きがありますが、この競技にはグラスシーリング(glass ceiling)〔性的偏見〕はないようなので今後、女子の益々の参加となりましょう。
以上の背景で、鹿児島大会が開催されました。以下、プロ・アマの順で観戦記を開陳いたします。
・プロオープン
7人の選手で争われた。福岡県からアンディ・ペインター選手、岩﨑麻由選手、岩﨑光洋選手、下川征巳選手、小田洋平選手。熊本県から横田浩選手。宮崎県から川﨑広道選手。栄えあるこの部門に地元鹿児島県から、エントリーがないのは厳しい現実である。
見どころを挙げれば、①九州大学准教授アンディ選手の活躍のほどはいかに? ②女子ディスクゴルフ界No.1の実力者岩﨑選手はどのようなパフォーマンスをするか。 ③麻由選手の夫君光洋選手の出方は? ④日本ディスクゴルフ協会事務局長横田選手はデスクワークに埋没してはいまいか。 ⑤宮崎県代表川﨑選手はタイ遠征の成果を示し得るか。
⑥下川選手のムキムキ筋肉はこの競技に役立つのか。 ⑦小倉太鼓の使い手、小田選手のバチさばきはプラスするのか。
観衆の興味と期待を背景に予選へ入っていく。準決勝Rまでの結果は1位麻由選手192 2位アンディ選手193 3位光洋選手208 4位横田選手210 5位川﨑選手229 6位下川選手231 7位小田選手240となった。(小田選手は初日のニアピン競争男子の部で優勝)決勝Rへ進む4名は8投差でひしめく。なかでも焦点は麻由選手とアンディ選手の1投をめぐってのせめぎあいであろう。観衆は固唾を吞んで見守る。プレーは淡々と進んでいたが、#14で突然の濃霧に包まれた。視界はゼロに近い状態となった。選手の1人が「こんな中を投げるんですか」と質問してきた。「5分間待ちましょう。そのうちに霧は晴れるでしょう」と私が答える。昨年の豪雪に比ぶべくもないが、5分待っても霧は晴れなかったが、やがての再開始に、下方のゴール近くにいる係員に向かって叫ぶ。「今から霧の中を投げまーす。その方面は十分注意してください」。「了解。こちらの警戒は十分です」の回答。4選手次々に視界不良の中、全力投盤をする。どのディスクの落下地点にも怪我人がなくてホッとする。決勝Rの結果は麻由選手とアンディ選手が1位同点の219でサドンデス決着へ進むことになる。3位光洋選手237 4位横田選手238 であった。
(サドンデス決着は後記)
・プロレディース
予選1Rは塚本里香選手、加藤宏美選手、中川原友香選手の順。予選2R、同3R、準決勝までのスコアで加藤選手が首位に立つ。優勝加藤選手、2位塚本選手、3位中川原選手。滋賀県彦根市からの加藤選手は初日のニアピン競争で今年も勝つ。昨年、一昨年に引き続いての三連覇。あっぱれ! 塚本選手ならびに中川原選手の大健闘も印象的であった。
・プロマスター
予選から決勝まで3選手の順位は変わらず、優勝野中泰治選手、2位江原隆夫選手、3位日高竜市選手となった。ティースローは遠くへ、パッティングは確実にと、ベテランの味を存分に披露した3選手であった。
・プログランドマスター
出場選手8名中、準決勝までの成績は次のとおり。
横田一平選手199 森省三選手204 中川達也選手206 田中稔秋選手214
西薗良人選手215 武藤秀彰選手227 松原正明選手239 堺伸雄選手243
この結果、上位4選手が決勝へ進出。
森選手233 横田選手234 中川選手242 田中選手245
なんと、森選手が5投差をひっくり返して、逆転優勝した。これは豪雪の昨年大会に続いて2連覇となる。欣喜雀躍する森選手の高揚感と、一敗地にまみれた横田選手の無念さは、参加全選手がこれまでにどこかで経験した気持ちであろう。我々はディスク界にとどまらず、人生のどこかで歓喜と悲哀を感じるのだ。
・プロシニアグランドマスター
決勝Rへ吉田雅之選手、藤本博行選手、同点で田中昭男選手と梶山誠道選手が進出。決勝でも吉田選手の絶好調は続き優勝。さすが福岡県協会会長。身をもって県と国の仲間に範を示した。驚くべきは田中選手だ。ブランクがあると言うが、鹿児島のコースを殊の外、お気に召して飛行機で京都と鹿児島往復を繰り返し、遂に全国大会で準優勝という偉業を成し遂げた。3位梶山選手はご存知、能安・学兄弟の御父君。2子息に刺激されたのか、めきめき上達されている。藤本選手は得意のローラーで日本一の位置をねらっているのか。
浜上選手は地元コースを知り尽くしているはずだったが、結果は志に大きく反した。
・アマアドバンス
予選Rでは、山口学選手と田代忠義選手がともに53投で首位。3位の座も野中一平選手と持留慎吾選手が56投で分けた。5位に新内康雄選手の58投、6位田添寛選手の61投、7位元永瑞穂選手の68投で決勝へと進んだ。決勝Rでは山口選手、野中選手、持留選手、新内選手が26投の同点1位。結果、優勝山口選手。野中選手と持留選手はサドンデスへ進み、2位と3位に分かれた。4位新内選手(アマのニアピン競争男子の部で優勝)、5位田代選手、6位田添選手、7位元永選手となった。各選手のトップへのチャレンジ精神は熾烈であった。
・アマアドバンスレディース
3つの枠をそれぞれ福岡県からの、山口県からの、そして鹿児島県からの若い女子選手が分け合った。予選、決勝とも順位は変わらなかった。優勝田中佑季選手、2位濵中成美選手(アマのニアピン競争女子の部で優勝)、3位福村優美選手となった。次代を担う選手の活躍はさわやかであった。
・アマシニアグランドマスター
メンバー3人とも鹿児島県人。吉野公園コースが、格上の全国大会会場になったことを大いに喜んだ。優勝上原眞選手、2位持留潤一選手、3位松元辰美選手となった。3人とも他都府県の選手のレベルの高さに感銘を受けていた。
・アママスターレディース
九州の先進地福岡県からの3選手で競われた。山口美津子選手が予選、決勝ともに首位に立ちそのまま優勝した。松原あゆみ選手は予選Rで2位につけたが、決勝Rの失点が響き後退、3位となった。田中佐八美選手は決勝Rでの追い上げが奏効し2位を確保した。3選手とも昨年は大雪のため参加できなかったが、今年は大いに実力を発揮した。
・アマシニアグランドマスターレディース
6人全員鹿児島県人で平均年齢64.8歳。予選Rで田畑志保子選手は2投差の浜上和子選手に、決勝Rで1投差まで追い上げられるも逃げ切って優勝。田畑選手は九州オープンに引き続き浜上選手を抑えた。1位と2位の差1投と同じように3位と4位も1投差であった。
「されど1投」の辛勝に井上準子選手の喜びは頂点に達した。わずか2年しかないディスク歴ゆえの感激であろう。新村澄子選手は1投差負けの4位という事実を淡々と受け止めた。5位と6位の永野冨美代選手と松元ひとみ選手は一卵性双生児。仲の良さを今回も証明した。
・アマレジェンド
4選手とも鹿児島県人で、平均年齢74.8歳であるが元気そのものである。優勝松元文雄選手、2位新村建治選手、3位市来正史選手、4位上野義一選手。特筆すべきは病み上がりの上野選手が3位の市来選手に1投差と迫ったことである。これは、ディスクゴルフが高齢者や病気療養者に適当なスポーツである、ことを証明してはいまいか。
(後記)プロオープンサドンデス
アンディ・ペインター選手と岩﨑麻由選手が同点で並び、鹿児島オープン史上、初のサドンデスでの決着へと進んだ。それにしても、アマアドバンスでの項でも感じたが、sudden death〔突然死〕とは何ともおどろおどろしき命名だ。栄光の座へあと一歩と迫った二人の選手の一方への突然死の宣告はあまりに残酷だ。この名称は敗者をムチ打つネガティブ発想ではあるまいか。敗者より勝者を賞賛するポジティブ発想へ転換すべきだ。グローリアスビクトリー(glorious victory)〔栄光の勝利〕などいかがなものであろうか。敗者はそっと置いて勝者への賛辞を声高く叫べばよい。ラグビーの場合は、決勝後をノーサイド(no side)〔ゲーム終わり〕と呼ぶ。勝者も敗者もないのだ。
さて、出場プロ26名の中で、生き残ったこの2人、すなわち百戦錬磨54歳のアメリカ人アンディ・ペインター選手と、芳紀まさに30歳の若妻にして、ディスタンス日本記録135 m保持者の岩﨑麻由選手との頂上決戦が開始された。
延長戦用♯1(80m)はともに3投での♯2へ。トリプルマンダトリーだ。この難関を共に簡単にクリアーして投げ下ろし103mの♯14へ。共に3投で譲らず。♯15は左側に樹木が密生する103m。2人のディスクはそれぞれハイザーとなって天空に大きな弧を描いてピンそばへ。♯16の129m投げ下ろしに移っても2人のパワーとテクニックは冴えわたる。
♯17は上り勾配の117m。2者それぞれ同数でゴールイン。次の♯18は投げ下ろし73m。先ほどの濃霧は無くなり夕日が燦々と輝いているこのコース。本部席近くを目指して投げ込む。ピン近くに落としたディスクに向かって中肉中背ガッチリ型のアンディ選手は、自信に満ちた歩幅を刻み、麻由選手は時おり笑顔を交えながら、小鹿のバンビよろしく華奢な体を軽快に運ぶ。既に延長戦の第1投だけを合わせても9h分856mを投げている。
この数字に延長戦前の両日の72h分の本番を加えると総投距離は6,020mに達する。鹿児島オープンのNo.1を決めるサドンデス戦に臨んだ2選手の恐るべきパワーとスタミナそしてテクニックのすさまじさよ! しかもその態度たるや淡々、粛々そのものだ。あわてず、さわがず、おごらず、己の持てる力を出し切ればそれで満足と達観している風だ。昔の高僧・仙人・剣豪もこのような境地にあったのかもしれない。丁々発止の戦いを続けた2人にも、やがて終わりの時がやってきた。第1投をゴール近く5mに寄せたアンディ選手に対して、麻由選手のは15mほど離れ、次投を外してしまった。天与のチャンスを見届けたアンディ選手、虎の子の第2投をゴールに収め込んだ! アンディ選手勝つ。麻由選手一歩及ばず。笑顔で勝者に祝福の手を差し出す麻由選手。応じるアンディ選手。デッドヒートを見守った全観衆は2人に惜しみない拍手を送る。ああ、日本および世界の場裏を幾度もこなした千軍万馬の古強者に臆することなく、若い力と情熱の限りを出し尽くし、遂に吉野原頭に散った名花一輪。美しくもあり哀れでもある。岩﨑麻由選手の大健闘は、これからも久しく語り継がれるであろう。この大熱戦が掉尾を飾り、第3回鹿児島オープンは大団円となった。
1月28日の交流会会場で、各地区の活動の現状を知り得たのは幸いでした。それぞれの地で仲間が、運営に苦労しつつも好きなディスクに励んでおられることを知りました。
お礼が最後になってしまいましたが、開催に当たって、協力を惜しまなかった日本ディスクゴルフ協会、福岡・熊本・佐賀各県ディスクゴルフ協会、北九州ディスクゴルフクラブに深甚の感謝を捧げます。
また吉野公園は設営に、惜しみなく機材と技術を提供してくださいました。厚く御礼申し上げます。
全国のディスク同志の第4回大会へのご参加をお待ちしつつ、所感に代えさせていただきます。
鹿児島県ディスクゴルフ協会会長 浜上光生